はじめの会

「自殺のポストベンション―自死遺族のつどいを通しての自死遺族ケア―

第2回臨床精神看護学研究会誌2017,10-12,2017年11月」

櫻井信人  関西国際大学保健医療学部

 

1.はじめに

日本は平成10年以降14年連続で年間3万人超の人たちが自殺で命を落とすという世界的にも自殺率の高い国である。警察庁の自殺統計では、平成27年の自殺者数は2万4025人であり、日本人の死因順位の第8位に上がっている。近年は減少傾向にあるが、人数としては依然多く、交通事故死亡者数の6倍となっており、自殺対策は引き続き日本にとっての大きな課題となっている。日本の自殺対策を見ると、各自治体で様々な取組みが行なわれているが、それらの多くは予防対策が中心である。自殺後に遺された遺族(以下、自死遺族)へのケアについては、自殺対策基本法に明記はされたが、現在のところまだ発展途上にある。

自殺の問題はその性質上あまり表に出ないことが多いが、一人の人が自殺をすると少なくとも5人の者に深刻な影響を及ぼすと言われている。単純に計算しても直近10年では約30万人の自殺者がおり、150万人以上の自死遺族が深刻な精神的影響を受け、何らかのケアが必要な状態であるといえる。加えて、自死遺族の後追い自殺も大きな問題となっており、自死遺族ケアは自殺予防の側面も大きい。

研究者は自殺対策の中でも自殺後に遺された遺族へのケアに着目し活動を続け、平成22年には自死遺族のつどいを立ち上げ運営し、現在まで活動を続けてきた。今回はこれまでの活動を振り返り、自死遺族の特徴や自死遺族ケアについて考察した。

 

2.倫理的配慮

本研究及び活動の対象者は自死遺族であり、データの取り扱いに当たっては個人が特定されないようにし、内容については個別性を除き一般化するなどの配慮をした。インタビューデータの取り扱いについては、関西国際大学の倫理委員会の承認を受けた。

 

3.自死遺族の置かれている状況

人が亡くなると大きな悲しみが生じるが、自死遺族の場合、悲しみ以外に疑問、否認、自責の念、他罰感、罪悪感、不安、怒り、空虚感、開放感など様々な感情が生じる。その結果、本来必要である悲しみと向き合うことが阻まれ、周囲の偏見や話しづらさも加わり、回復が遅れる要因ともなっている。自死遺族は様々な感情の中で悩み苦しみ、不眠や食欲の低下、うつ症状を呈する者も少なくなく、病院を受診し看護師が関わる機会もある。さらに自死遺族は自殺のハイリスク者でもあり、遺族ケアはポストベンションという視点だけでなく、自殺予防にもつながっている。

 

以下にこれまでのインタビュー調査の結果等を踏まえ、自死遺族に生じやすい感情を説明する。

(1)疑問

自殺した理由が分からず、理由を探そうとする。しかし遺書がない場合やはっきりとした原因が分からない場合、どんなに考えても答えを見出せず、亡くなった方に聞くこともできない。遺された遺族は理由が分からず疑問だけが残り苦しんでいた。

(2)否認

自殺なんかしていない、自殺なんかするはずがない、当時のことは覚えていないなど、死という現実や自殺という現実を意識から遠ざけて回避することもあった。

(3)自責の念

あの時気付いていれば防げたのではないか、今思えば助けを求めていたのに何もしてあげられなかった、あの時の言葉が足らなかった、自分のせいだなど、もっとこうしていればと後悔し、自分を責めることが多い。この自責の念は多くの自死遺族に当てはまるものであった。

(4)他罰感

誰々のせいで自殺した、あの人がきちんと見ていなかったからこうなった、一緒に住んでいて何で気付かなかったんだ、自殺はあなたと結婚したからだ等があげられたが、この他罰感は身内の場合、周囲から言われることの方が多かった。

(5)罪悪感

自分だけ生きていていいのか、自分だけ楽しんでいいのか、亡くなった人はあんなに苦しんだのに自分だけ楽しんではいけない、笑うことも申し訳ないなど、救ってあげられなかったことや死なせてしまったという家族としての罪の意識が存在していた。

(6)不安

行き続けなければならないことが苦しいし不安、子どものところへ行きたいし一緒にいたい、自分も自殺するのではないかという不安、これからの生活が不安など、精神的な不安から現実的な不安まで、自死遺族は数々の不安を抱えていた。

(7)怒り

自殺という手段を選んだことに対しての怒り、自殺でなければ遺された遺族はもっと楽であったのにという怒りの感情が存在することもあった。

(8)空虚感

何も考えられなかった、一定期間の記憶が抜けている、何をしていたのか覚えていない、涙が出て何もできないなどの空虚感があった。

(9)開放感

自殺未遂を繰り返していた場合では、未遂がいつ既遂になるかと常に緊張が張り詰めた状態になっており、そのような状況下で自殺が生じると、ほっとした、楽になったという思いが片隅に生じることもあり、この開放感が罪悪感につながることもあった。

 

4.自死遺族ケア

以上のように自死遺族は悲しみ以外の様々な感情の中で悩み苦しんでいた。しかしその一方で自殺という内容から、その感情を表出しない、表出できないことも多い。自死遺族は誰にも話せない中において一人で対処しなければならず、感情を表出することも阻まれる状況下にあり、孤独感や孤立感は強いと思われる。このような自死遺族に対してのケアの一つとして、感情を表出して語ることが有効であり、自死遺族のつどいの場は安心して語りや感情を表出できる場として最適であると考えられる。

これまでの活動を通して、自死遺族のつどいに参加することによる効果を振り返ると、自死遺族は感情を表出し、他の自死遺族の様子を知り、共感や安心できる気持ちを持ち、自分だけではないと孤立化を予防する効果が見られていた。また、継続的に参加し話をすることで自身の気持ちの整理ができ、亡くなった方と向き合ったり、他者に自身の経験をアドバイス的に伝えるなどの前向きな変化が見られるようになり、自死遺族のつどいで語ること、悲しみを分かち合うことが自死遺族の回復の一助になっていると考えられた。

 

5.おわりに

 現在、各都道府県に自死遺族のつどいができている。病院の外来や病棟で自死遺族に出会った際は、感情を否定することなく全て受け入れて傾聴し、不眠や食欲低下などのうつ症状の観察や医療を提供することに加え、自死遺族のつどいの情報提供や参加を勧めてみるのも効果的であると思われた。

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